名古屋高等裁判所金沢支部 昭和30年(う)257号 判決
所論の要旨は被告人が長谷川元治、荻野周作に面会したのは住宅の敷地外でありまた松田千代に面会したのは玄関の外である。村上健太郎に対しては立候補の挨拶をしたのみで、中島すゞに対しては宮の総代関係のことで訪問したものに過ぎない。森山幸作については被告人は会つていない即ち訪問をしていない。のみならず本件の程度の訪問をもつて直ちに連続訪問の意思がありとすることは経験則上不当であるというにある。しかし公職選挙法第百三十八条にいわゆる戸別訪問の罪は選挙に関し、投票を得若しくは得しめない目的をもつて、連続して選挙人の居宅を訪問することによつて成立するものであつて、その各選挙人に対する訪問が当初決定せられたる一個の意思の下に行われたりや否、継続の意思に出たるや否等は問うところでなく、その訪問の場所も必ずしも選挙人の居宅につき訪う場合に限らず社会通念上選挙人何某方と解せられるべき場所について訪う場合も包含するものと解すべきところ、本件につき原判決挙示の証拠を綜合すれば、被告人は自己に投票を得る目的をもつて、昭和三十年一月十九日頃選挙人長谷川元治方を訪ね玄関に至り家の中に声をかけたが返事がなく右長谷川が家敷に続いている北方の温床の所に居たので被告人は其処に至り同人に対し、同日頃選挙人中島すゞ方を訪ねその玄関の戸を開けて土間に入り、同人に対し、同月二十日頃選挙人松田千代方を訪れその玄関において同人に対し、同日頃選挙人森山幸作方を訪れその玄関において同人に対し、同月二十一日頃選挙人村上健太郎方を訪れその玄関において同人に対し、同月二十三日頃選挙人荻野周作方を訪れ同人方の居宅敷地内の納屋と居宅の間辺で同人に対し、いずれも自己に対する投票の依頼をなしたことが明らかであつて、被告人は選挙人の居宅又は社会通念上選挙人方と解せられる場所について訪うたものであることが明らかであるから被告人の各所為は公職選挙法第百三十八条にいわゆる戸別訪問に該当するものといわなければならない。従つて原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。
(裁判長判事 水上尚信 判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫)